「解約したいのに電話がつながらない」。この状態は、顧客体験の問題であると同時に、いまや法令遵守の問題です。2022年6月施行の改正特定商取引法は通信販売の解除妨害に当たる行為を禁止し、消費者庁のガイドラインは解約方法を電話とする場合に「確実につながる電話番号」の掲載を求めています。一方で現場は採用難が続き、解約対応のためだけに座席を増やすことは現実的ではありません。本記事では、定期通販(単品リピート通販)の解約電話を取り巻く公的データと法規制を一次資料で整理し、AI電話自動応答で「必ずつながる解約窓口」を作る設計を具体的に解説します。
国民生活センターのPIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)に登録された「通信販売での定期購入」に関する相談は、2023年度80,315件、2024年度89,401件、2025年度93,065件と増加を続けています(2026年7月31日更新の同センター集計。通信販売で購入した「商品」に関する相談に限定した件数です)。
件数の多さ以上に象徴的なのは、その「型」です。国民生活センターの消費者トラブル解説集には、「いつでも解約できる『定期購入』のはずなのに、販売業者に電話が繋がらず解約できない。どうしたらよいですか。」というFAQが公式に掲載されています。相談があまりに典型化した結果、質問文そのものが定型化しているということです。2024年1月の同センター報道発表にも、次のような相談事例が原文のまま掲載されています。
「約2万円の商品が3カ月ごとに届く定期購入になっていたようだ。次回以降は解約したいが、事業者の電話番号にかけてもつながらない。どうしたら解約できるか。」(2023年7月受付 60歳代 女性)
さらに2026年4月28日には「巧妙化する定期購入のトラブルにご注意」と題した注意喚起が改めて出されており、申込みの途中で別プランへ誘導するケースなど、手口の変化にも公的機関の監視が続いています。ここで重要なのは、これらの相談の相手方として名指しされているのが、悪質事業者だけではないという点です。広告も表示も適正に運用しているつもりの事業者でも、解約窓口の応答率が落ちていれば、顧客から見える景色は「つながらない事業者」と同じです。相談窓口に持ち込まれれば、行政からの照会対応という別のコストも発生します。
2022年6月1日に施行された改正特定商取引法は、いわゆる「詐欺的な定期購入商法」への対策として、次の3点を柱に通信販売の規律を強化しました(消費者庁の改正法概要より)。
そのうえで、消費者庁「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン」(特商法第12条の6関係、令和6年11月19日付通達別添)は、解約窓口の運用にまで踏み込んだ記述をしています。核心部分を原文で引用します。
「解約方法として例えば電話による連絡を受け付けることとしている場合には、確実につながる電話番号を掲載しておく必要があり、最終確認画面に表示された電話番号に消費者から電話をかけても一切つながらないような場合……は、『契約の申込みの撤回又は解除に関する事項』について不実のことを表示する行為に該当するおそれがある。」
つまり、「電話番号は正しく載せているが、実際にはほとんどつながらない」という状態の放置自体が、不実表示と評価されるおそれがあるとされています。あわせて同ガイドラインは、「実際には解約条件等が付いているにもかかわらず、『いつでも解約可能』などの表示をした場合には、『人を誤認させるような表示』に該当するおそれがある」ともしています。表示と実態の一致が問われる構造です。自社の状態は、次の観点で棚卸しできます。
| チェック項目 | 見るべき実態 | リスクの所在 |
|---|---|---|
| 解約受付番号の応答率 | 解約・変更呼に限定した応答率と、時間帯別のあふれ呼の量。全体の応答率では埋もれます | 「確実につながる」状態と言えるか。一切つながらない時間帯が常態化していないか |
| 「いつでも解約可能」等の表示 | 次回発送の何日前までか、回数条件はないか、実際の解約手続と表示の一致 | 表示と実態が異なれば「人を誤認させるような表示」に該当するおそれ |
| 解約方法の限定 | 電話のみに限定している場合、その電話の受付時間と実際の処理能力 | 受付手段を絞るほど、その手段の「つながりやすさ」への要求は実質的に上がります |
| 受付記録 | いつ・誰から・何の申し出があり、どう処理したかの記録が残る体制か | 行政や消費生活センターからの照会に、事実で答えられるか |
なお、本記事は公表資料にもとづく整理であり、個別の表示や運用の適法性判断は所管官庁の解釈と個別事情によります。具体的な判断は専門家にご相談ください。
解約窓口の応答率が落ちる構造は、悪意よりも算数で説明できます。日本コンタクトセンター協会(CCAJ)の2025年度実態調査では、オペレーターの採用に「苦労している」「やや苦労している」企業が82.1%、職種別の人材不足感はコミュニケーター・オペレーターで72.7%にのぼります。人が採れない中で限られた座席を配分するとき、売上に直結する新規注文呼が優先され、解約・変更呼の優先度は構造的に下がりがちです。
そこに定期通販特有の呼量の波が重なります。広告出稿やテレビCMの直後は新規呼が集中して回線を埋め、同じ時間帯の解約呼はあふれます。つながらなかった顧客は翌日また架けるため、あふれ呼が再架電を生み、再架電がさらにあふれ呼を生む雪だるまが起きます。その先にあるのが、SNSでの「つながらない」という指摘、消費生活センターへの相談、決済のチャージバックです。座席を増やして解決しようにも、解約呼は売上を生まないため増席の稟議が通りにくい。これが多くの現場の実情ではないでしょうか。
解約窓口の応答率は、コストセンターの指標ではなく、前章で見たとおり表示の適正性を支える法務指標でもあります。「解約呼の応答率」を独立したKPIとして計測していない場合、まずそこから始める価値があります。
AI電話自動応答(ボイスボット)を使うと、解約・変更の一次受付を24時間365日、話し中なしで「必ずつながる」状態にできます。AIは同時に複数の着信を受けられるため、広告出稿後のスパイクでもあふれ呼が発生しません。プッシュ操作で分岐する従来型IVRと違い、「定期をやめたいんですけど」のような自由な話し言葉から用件を判定します。設計の型は次のとおりです。
そして、この設計でもっとも重要なのが引き止めの扱いです。
強引な引き止めをAIにやらせてはいけません。改正特商法は解除の妨害に当たる行為を禁止しています。解約の意思表示に対して長いアンケートを挟む、代替案の案内を何度も繰り返す、承諾するまで受付を完了しないといった設計は、たとえAIでも「解除の妨害」と受け取られるおそれがある構造です。当社は、代替選択肢のご案内は一度だけ・短く、顧客が解約を選んだら妨げずに受け付ける設計を推奨しています。「つながらない解約窓口」を「解約させない解約窓口」に置き換えたのでは、リスクの形が変わるだけです。
他社サービスの公表事例ですが、構造の参考になるものを1件紹介します。健康・美容のD2C定期通販を展開するビタブリッドジャパンは、PKSHAのボイスボット(PKSHA VoiceAgent)を導入し、電話での定期購入の変更・解約・返品の受付を、カートシステム(EC-CUBE)とのAPI連携で自動完結する体制を作りました。ベンダー公式の導入事例によれば、応答率が過去最低水準まで落ち込んでいた状況から応答率を10%以上改善し、目標値までV字回復しています。
同じ事例で正直に見るべきは限界の記述です。原文には、解約時の継続利用のご案内(引き止め)の成功率は自動応答では約50%程度とオペレーターより低い旨が明記されています。ここから読み取れる役割分担は明確です。
当社(Rabona AI)のAIコールセンターも同じ思想で設計しており、受電の一次対応・聞き取り・CRM記録・SMS送信・担当者への取次までを一つのフローで自動化します。業務は異なりますが、設備会社の受電の約9割をAIが完結した宝宮設備様の導入事例で、聞き取りから通知までの実際の流れをご覧いただけます。
解約窓口の整備はコンプライアンス対応として語られがちですが、実際には収益に働く面があります。
EC・通販の電話対応全体(配送確認・注文受付・返品など)をどう自動化するかは、EC・通販の電話対応AI自動化ガイドで体系的に解説しています。問い合わせの最大セグメントである「荷物はいつ届くのか」への対応はWISMOの解説記事をご覧ください。
解約・変更呼に限定した応答率と時間帯別のあふれ呼を棚卸しすると、リスクの大きさと自動化の効果が数字で見えます。現在の入電状況をお聞かせいただければ、解約受付フローのデモ音声とあわせて、自動化した場合の設計をご提案します。
出典:国民生活センター「通信販売での定期購入にご注意」相談件数集計(2026年7月31日更新、kokusen.go.jp)/国民生活センター報道発表「巧妙化する定期購入のトラブルにご注意」(2026年4月28日、kokusen.go.jp)/同「その申込み、定期購入になっていませんか?」(2024年1月31日、kokusen.go.jp)/国民生活センター消費者トラブル解説集(2021年、kokusen.go.jp)/消費者庁「令和3年特定商取引法・預託法の改正について」(caa.go.jp)/消費者庁「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン」(令和6年11月19日付通達別添、no-trouble.caa.go.jp)/PKSHA Technology「ビタブリッドジャパン様 導入事例」(aisaas.pkshatech.com)/日本コンタクトセンター協会「2025年度 コンタクトセンター企業 実態調査」(ccaj.or.jp)。当社(株式会社Rabona AI)はAIコールセンターの提供事業者です。本記事は公表資料にもとづく一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。ビタブリッドジャパン様の事例は他社サービス(PKSHA VoiceAgent)の公表事例です。