ECの問い合わせはチャットやメールに移った、と言われて久しいのに、電話は鳴りやみません。配送確認、定期購入の解約、テレビCM直後の注文、返品の相談。しかも電話をかけてくるお客様ほど、Webでの自己解決に誘導できない層です。このガイドでは、EC・通販の電話を4つの類型に分解し、それぞれをAIでどこまで自動化できるか、公的統計と公表事例だけを根拠に整理します。
経済産業省の「令和6年度電子商取引に関する市場調査」(2025年8月発表)によると、2024年の国内BtoC-EC市場規模は26.1兆円で前年比5.1%増。日本通信販売協会(JADMA)の調査でも、2024年度の通販売上高は14兆5,500億円と26年連続で増加しています。市場が伸びれば、注文も、配送も、問い合わせも増えます。
一方で見落とされがちな数字があります。同じ経産省調査で、物販分野のEC化率は9.78%。つまり物販の商取引の約9割は、いまだにECの外側(店舗・電話・カタログなど)で行われています。特にテレビ・新聞・ラジオなどオフライン広告で顧客を獲得する通販では、注文も問い合わせも電話が主要チャネルであり続けており、顧客層の中心は電話に慣れた世代です。
問い合わせをチャットボットやFAQに寄せる「ノンボイス化」は確かに進んでいます。しかし電話をかけてくるお客様は、そもそもWebの自己解決手段に到達しない層です。チャットボットを強化しても、電話の呼量はその分だけ素直には減りません。
そして受け手側の事情が深刻です。日本コンタクトセンター協会(CCAJ)の2025年度実態調査では、回答企業の82.1%が採用に「苦労している」「やや苦労している」と答え、オペレーター職の72.7%に不足感、スーパーバイザーに至っては87.9%に不足感があり、「過剰気味」とした企業はゼロでした。呼量が増えたら人を増やす、というこれまでの前提が成り立たなくなっています。
整理すると、EC・通販の電話対応は「呼量は構造的に減らない」「人は構造的に増やせない」という2つの制約に挟まれています。この隙間を埋める選択肢として、電話そのものをAIが受ける・架けるという打ち手が現実味を持ち始めました。
「ECの電話対応を自動化したい」という漠然とした課題は、入電を用件で分解した瞬間に具体的になります。EC・通販の電話は、おおむね次の4類型に収まります。
| 類型 | 内容 | AIでの扱い |
|---|---|---|
| 1. 配送確認(WISMO) | 「注文した商品はいつ届くのか」「荷物が届かない」。海外では WISMO(Where Is My Order)と呼ばれ、EC問い合わせの代表格 | 注文情報を照会して配送状況を回答。追跡リンクを通話中にSMS送信。最も定型度が高く、自動化の入口に最適 |
| 2. 定期購入の変更・解約 | 定期コースの解約、お届け日変更、スキップ、数量変更。単品リピート通販では入電の中核 | 本人確認項目を聞き取り、解約・変更を受付。「確実につながる解約窓口」という法令要請にも応える |
| 3. 注文受付・あふれ呼 | 電話での新規注文。テレビCM・折込チラシ直後は呼量が数倍に跳ね、取り逃しがそのまま売上損失になる | 商品・数量・届け先を聞き取って受注。スパイクに席数の上限なく追従できるのがAIの構造的な強み |
| 4. 返品・交換 | 返品可否の確認、交換手続き、破損・誤配送の申告 | 一次受付と状況の聞き取りを自動化し、手順はSMSで案内。例外判断と補償の決定は人へ引き継ぐ |
以下、類型ごとに「どれくらい発生するのか」「AIで何がどこまでできるのか」を見ていきます。
ECヘルプデスク大手のGorgiasは、1万2,000以上のブランドのデータから、WISMOが受信する問い合わせの平均18%を占める、ECで最も多い質問だと公表しています。日本のEC現場で「配送確認」「荷物どこ電話」と呼ばれてきたものと同じです。
WISMOの発生構造と4段階の削減策は、WISMOとは?「注文した商品はどこ?」問い合わせの意味と削減策で詳しく解説しています。
国民生活センターによると、通信販売の定期購入に関する相談は2023年度80,315件 → 2024年度89,401件 → 2025年度93,065件と増え続けています。相談の典型が「解約したいのに電話がつながらない」です。
ここは顧客体験だけの問題ではありません。特定商取引法(2022年6月改正法施行)は通信販売の契約解除の妨害に当たる行為を禁止し、消費者庁のガイドラインは、解約方法を電話とする場合には「確実につながる電話番号を掲載しておく必要」があり、かけても一切つながらないような場合は不実表示に該当するおそれがあるとしています。つまり解約窓口があふれたまま放置すること自体がリスクです。
実例もあります。D2C定期通販のビタブリッドジャパンは、電話での定期購入の変更・解約・返品をボイスボットで自動完結させ(EC-CUBEとのAPI連携)、応答率を10%以上改善したとベンダー公式事例で公表されています。同じ事例には、継続利用のご案内の成功率は自動応答では約50%程度とオペレーターより低い、という限界も明記されており、「受付はAI、引き止めの提案は節度を持って設計する」という役割分担の重要性を示しています。
法令の要求水準、解約受付フローの設計、引き止めをどこまでAIにやらせるべきかは、定期通販の解約電話が「つながらない」は法的リスクで詳しく解説しています。
テレビ・ラジオ・新聞広告起点の通販では、いまも電話が主要な受注チャネルです。この業態の宿命があふれ呼です。CMが流れた直後の数十分に呼が集中し、席数を超えた分は話中・放棄呼になります。コストの問題ではなく、広告費をかけて生んだ注文意欲をその場で取り逃す、売上の直接損失です。
実際の自動化率の例として、木製品通販の谷治新太郎商店では、月300件の電話問い合わせのうち約9割を自動化したことがベンダー公式事例(IVRy)で公表されています。規模の大小を問わず、定型の受付はここまで任せられる水準に来ています。
返品・交換は一見定型に見えて、例外が多い類型です。開封済みかどうか、返品期限、送料の負担、破損の状況。ここをAIで完結させようとすると、かえって顧客体験を損ねます。
「カスタマーサポートの自動化」の文脈では、チャットボットの成功事例が多く語られます。アスクルのLOHACOはAIチャットで全問い合わせの3分の1を自動対応(省人化効果6.5人分)と公表し、ファンケルはAIチャットの実証実験で問い合わせ完了数が約2割向上、ニトリはチャットボットとビジュアルIVRを軸とした生成AI改革で約30人分の業務工数を削減したと公表しています。いずれも優れた成果ですが、これらはすべてテキストチャネルの成果です。
| 観点 | チャットボット・FAQ | 電話AI(AIコールセンター) |
|---|---|---|
| 届く層 | Webで自己解決しようとする層 | 電話でしか問い合わせない層(オフライン獲得顧客・高齢層に多い) |
| 減らせる呼量 | 電話の手前で吸収できた分だけ間接的に減る | かかってきた電話そのものを直接自動化する |
| 向く用件 | FAQ・仕様確認・手続き案内 | 本人確認を伴う受付(解約・変更・注文)、緊急性のある確認 |
| 限界 | 電話をかけてくる層には届かない | 例外判断・交渉・補償の決定は人に残す |
チャットボットと電話AIは競合ではなく分担です。判断の軸はシンプルで、「その問い合わせは、いまどのチャネルで来ているか」。電話で来ているものはチャットの強化では減りません。電話で来ているなら、電話のまま自動化するのが最短です。
自動化の設計で最も重要なのは、任せる範囲ではなく任せない範囲を先に決めることです。当社は次の線引きを推奨しています。
自動化の効果は入電の内訳で決まります。用件別の集計のしかたからご相談いただけます。配送確認・解約受付の実際の応対音声も、デモでご確認ください。
出典:経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」(2025年8月26日、BtoC-EC市場規模26.1兆円・物販EC化率9.78%)/日本通信販売協会「2024年度通販市場売上高調査」(2025年8月28日、14兆5,500億円・26年連続増加)/日本コンタクトセンター協会「2025年度コンタクトセンター企業実態調査」(採用に苦労82.1%・オペレーター不足感72.7%・SV不足感87.9%)/国民生活センター「通信販売での定期購入」相談件数(2026年7月31日更新、2025年度93,065件)/消費者庁「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン」(令和6年11月19日通達別添)/Gorgias公式ブログ(WISMOは受信問い合わせの平均18%)/PKSHA公式導入事例(ビタブリッドジャパン)/IVRy公式事例(谷治新太郎商店)/Hmcommプレスリリース(ディノス・セシール、2018年)/アスクル・ニトリ・ファンケルの各公表資料(いずれもテキストチャネルの成果として引用)。当社(株式会社Rabona AI)はAIコールセンターの提供事業者です。